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顎と歯の動き 限界運動のはなし

こんにちは、ヴェリ歯科クリニック院長の田島です。

関節などにマーカーを取り付け身体の動きをデジタル的に記録し、CG映像として再生することができるるモーションキャプチャという技術をご存知でしょうか。

スポーツやダンスパフォーマンスなどの分野でもこの技術が役立っています。

このモーションキャプチャーのマーカーが前歯2本の中心にあると想像しながら、

口を大きく開けて、顎を限界まで前に出したり横へ動かしてみましょう。

前後左右に動かした時の顎の可動域には理想的な範囲があり、それを歯の限界運動路と言います。その範囲に左右や前後に差があった場合は顎の症状があることを知っていただければと思います。

歯の限界運動路 ポッセルトの図形


出典元:歯の形ならびラボより引用

この図は口を大きく開け、顎を限界まで前後に移動した時の状態です。

下の前歯の中心を基準にして動いた歯の軌跡を描いた図になります。

1962年スウェーデンの歯科医ポッセルトによって発見されました。別名「ポッセルトのスウェーデンバナナ」とも言います。

なんだかバナナっぽいですよね。

この図を参考にして歯や顎のバランスを考えていきます。

噛んだところから前に歯を出す時

噛んだ状態を中心咬合位と言います。

ここから前に歯を出す時上の歯と下の歯が接触して滑走するエリアがあります。

ここのエリアを前方滑走運動路と呼びます。

この時前方滑走運動路は上の前歯の裏側の形態によって決まります。

裏側の形態が平坦であれば前方滑走運動路も平坦に、急であれば運動路も急な状態になります。

歯と歯の切端で噛む位置を超えると前方滑走運動路から前歯は自由に動き前方に動きます。

前方え動かした限界地点を最前方咬合位と呼びます。

最前方から一番大きく口を開けたところまで(開口位)

前に歯がある状態(アイーンと前歯を突き出した状態)から大きく口を開けます。

この運動路を前方限界開閉口運動路と呼びます。

大きく口を開け終わったところが最大開口位となります。

最大開口位から一番後ろで噛んだところまで(最後方咬合位)

一番大きく開いたところから顎を後ろに沿って口を閉じる時、途中『ガッコン』と軌道が変わるところがあると思います。

この軌道が変わる前の軌跡を後方限界開閉口運動路と呼びます。そして『ガッコン』と軌道が変わってから顎が後ろへシフトして後ろで噛むところまでを蝶番開閉口運動路と呼びます。

この特徴として、この時顎関節は後上方の一定状態のところに位置してます。

それにより顎の開閉口は一定の蝶番軌跡を描く事から蝶番開閉口運動と呼ばれています。

一番後ろで噛んだ状態から普通に噛むところまで(後方滑走運動路)

一番後ろで噛んだ状態から普段噛む位置まで戻すとき、奥歯の歯の斜面の角度によって運動路に差が出ます。

顎の位置が後ろの状態から元の噛んだ状態に戻す軌跡を後方滑走運動路と呼びます。奥歯の斜面が急であれば運動路も急になり、斜面が平坦であれば運動路も平坦になります。

普段の開閉口の軌跡

実はこの図形上に私たちが普通に開閉口してる軌跡はありません。図の点線のところが普段の開閉口の軌跡になります。

先ほどの実線で書かれた軌跡は限界の運動路なので再現性はあるのですがこの点線の軌跡は限界運動路の枠線の中に属すので普段の開閉口には再現性がないのです。

もう少し端的に言うと私たちが普段ものを噛んだり、口を開けたり閉じたりしているのは一定ではないということです。

下顎安静位と中心咬合位

先ほどの図の点線部を習慣性開閉口運動路と呼びます。

この習慣性開閉口運動路は我々歯医者が一番把握したい運動路です。

この運動路上に下顎安静位が存在します。

下顎安静位とは普段口をダラーンと半開きにしている、顎が一番リラックスしている位置で噛んだ状態より2mm開いていると言われてます。

入れ歯を作る時や噛み合わせを診るときの指標にしています。

下顎安静位は普段の習慣性開閉口の軌跡に位置するので臨床上重要な位置になります。

またこの習慣性開閉口運動路の終末位の中心咬合位は噛み合わせを作る上で一番重要な位置になります。この噛み合わせに沿って被せ物の設計をしたり歯を動かす矯正治療をしています。

運動範囲菱形柱

このポッセルトの図形は下顎の前歯の軌跡を矢状面(横から)見た図になります。

これに顎を左右に移動した状態の軌跡を加えると横から見た軌跡の状態だけでなく上方から軌跡を覗くとちょうど菱形の軌跡を描きます。この軌跡のことを運動範囲菱形柱と呼びます。

まとめ

少し難しい用語が多く使ってしまいましたが少しご理解いただけましたか。

今回は歯の限界運動についてお話しさせていただきました。

この運動路を知ることで顎のバランスや、噛み合わせの水平的な基準を知ることになります。

現在、顎運動路はモーションキャプチャーを利用して視覚的に再現されていますが、実はこの運動路は1962年当時の頃から知られていたのです。

噛み合わせの歴史を知ることで、より最新の医療技術をアップグレードされていくのですね。