こんにちは、巣鴨ヴェリ歯科クリニック院長の田島です。
歯科医院で虫歯や歯周病の治療に通っていると、多かれ少なかれ抜歯と言われた人はいるのではないでしょうか。
私たちは様々な基準でその歯に対して抜歯と診断していますが、中には一般的な方法とは違う方法で抜歯を避けられる可能性があることを知っていただければ嬉しいです。
まず、歯科医師が抜歯と診断する基準はどこにあるかをお話しします。
歯科医師が抜歯だと診断する理由
1. 歯が割れてしまった時
歯が割れてしまうと歯の内側、外側ともに細菌が侵入してくる事があります。
特にお口の中には数億種の細菌が住みやすい環境にあるため一度歯が割れてしまうと唾液や歯肉溝浸出液(歯茎の中を流れる液)によって簡単に感染してしまうのです。
感染すると内部では歯の根の中(根管)が感染状態になり根の病気が発生し、外部では割れ目に沿って菌が集まり歯を支える骨の一部が菌によって溶かされてしまいます。
神経がある歯は歯髄がむき出しになることから噛むと激痛が走るようになり、神経がない歯でも周りの靭帯に炎症が起こり痛みが起こるようになります。このような状況になると抜歯と診断されます。
2. 神経の治療を何度も繰り返してしまった歯
何度も神経の治療を繰り返すと1回目より2回目、2回目より3回目の方が予後が悪いというリサーチがアメリカ根管治療の学会で出ています。
神経の治療はまず、根管(歯の根の中にある神経の道)のサイズに合わせた器具を使い清掃しますが、感染範囲が広がれば(感染した2回目や3回目)清掃するサイズも大きくなります。
真ん中が空洞の大木を想像してみてください。真ん中の部分が虫に喰われ大きく穴が空いた木と同じで、感染がひどい歯は簡単に腐ったり折れたりしてしまうのです。
3. 歯周病によって歯の周りにある骨がなくなってしまった歯
骨の支えがなくなると歯はどんどん揺れてきます。
歯を前後(頰方向舌方向)に、歯を横方向(歯の両サイド)に、最後に垂直方向(噛み合わせ方向から押してみて)に揺れていたら骨のサポートはあまり受けていないことがわかります。
そこまで揺れてしまった歯は噛み合わせの一因として考えることができないため抜歯と診断判断されます。
4. 虫歯の穴が大きすぎて骨の下まで穴が空いている歯
虫歯が大きくなると虫歯菌の出す酸によって歯は溶け出します。
その溶け出す場所が問題になってきます。
真ん中(神経のある方向)ではなくその側面の場合、歯と歯茎の間の場合、虫歯によって歯は骨の下まで溶け出している可能性は高いのです。
虫歯を治療しても骨より下の部分は治療不可能であり、ここから細菌は繁殖します。
また虫歯治療の後の詰め物を衛生的に悪い骨の上に合わせることになるので予後に不安が残ります。
5. その他 悪性病変のため 矯正治療で便宜的なため など
1〜4まで主な抜歯診断になるケースですが、それ以外の理由で抜歯と診断されることもあります。
抜歯する歯やその周辺の悪性病変、抜歯しないと治癒しない病変がある場合、あるいは矯正治療を行うにあたり抜歯をしてそのスペースを利用して歯を移動する場合などがあります。
一般的にこのような診断を基に我々歯科医師は抜歯か抜歯ではないかを診断していますが、その裁量は各々の歯科医師によって違いがあります。
全ての歯科医師が専門的技術を持っているわけではないが専門的な治療により歯を抜歯から救えることもできるということを知っていただきたいと思います。
抜歯と診断されても救える5つの治療法
1.クラウンレングスニング
歯が割れてしまった場合や歯の虫歯の穴が骨のラインより下にある場合(1と4)この治療により救える可能性が期待できます。
クラウンレングスとは被せ物(crown)の長さ(length)を調整することです。
割れた歯の破折ラインや骨の下の虫歯に相当する骨を調節して割れ目や骨の下の虫歯を骨より上に設定するのです。
これをすることで虫歯の完全除去が可能になりまた、破折ラインもなくす事ができます。
2. 根管治療専門医の採用
歯科医師にも専門性のある分野に特化した歯科医師が存在します。
インプラント専門医、矯正専門医がいるように、根管治療(歯の神経の治療)にも専門医がいるのです。
歯科治療の技術が進んでいる米国などでの専門課程を終えた根管治療専門医がが治療する事で高い確率で根の病気の再発が救えるでしょう。
3. エクストルージョン(矯正牽引)
クラウンレングスと適応は同じ1、4の時によく治療を行います。
破折ラインや骨より下の虫歯に対して治療が行えるよう歯の中心にフックを付け両サイドの歯あるいは別の固定源を使い引っ張ることです。
矯正の治療の一つと言えます。
4. GBR GTR (歯周再生外科)
これらの治療は歯周病によって歯が抜歯と診断された方に有効です。
骨のサポートを失ってしまった部分の骨の再生術です。
人口骨や自身の血小板を活用する手法、ブタの歯胚から抽出した成分を活用する手法(臨床データの成績が良い)最近ではそれらをミックスした手法などがあります。
しかし、治療に高度なテクニックが必要であること、患者さんのプラークコントロール(お口の中の衛生状態)ができていないと良い結果は得られません。
5. 延命的な治療法
この治療については歯科医師の中でも行うことに賛否両論はあります。
どうしても抜歯は避けたいと切望される患者さんにとって、リスクを承知であれば考えてもいい方法ではなかろうかと思います。歯科医院によって手法は様々ですが、抜歯を宣告されてから3年以上予後が良い歯もあるのです。